俺のロミジュリの話

 

 

 

 

「僕の穢れた唇を君の唇に重ね、その罪を清めよう」

 

 

 

 

 

 

コロコロ変わる表情と観客を惹き付ける圧巻の演技力。かろやかな身のこなしは純真で真っ直ぐな彼を表しているかのよう。

 

美しくも儚い、悲劇という名の愛の結末を描く「ロミオとジュリエット」。イタリアの街・ヴェローナで争いを繰り返すモンタギュー家のロミオとキャピュレット家のジュリエットの悲恋の物語である。この伝統ある作品で主演を務めるのは舞台単独初主演の道枝駿佑(18)。生まれ持った甘さと品格を携えた容貌に併せ持つ、確かな才能で見る人の目を惹く圧倒的な演技力。大きなプレッシャーを背負って舞台に立つその姿は、18歳であることを忘れてしまうほど頼もしい。

ジュリエットに想いを馳せ凛々しく佇むその姿は、彼の美しさをより一層際立たせる。私がこの春目にしたのはシェイクスピアの作品で生きる、「役者」の道枝駿佑だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小鳥のさえずりが聞こえたかと思えば、青い帽子を被りゆっくりと歩いて登場するロミオに、一瞬にして目を奪われる。正直、

 

顔の作画が良すぎんだろ…

 

と声を失った。(※観劇で声出しは勿論NO)歩いたところの空気が浄化されてるのが目に見えてわかる。この世の生命体で一番綺麗。スタイルがアホ(良い)。四捨五入したらほぼ脚。ロザラインに恋焦がれ、少し憂いのある表情は作品から飛び出したロミオそのもの。

 

難しい古典的な言い回しが、言葉が溢れ出すかのようにテンポ良く繰り出される。スピード感のあるストリートプレイだが、ひとつひとつの言葉にはしっかりと感情が宿っているので聞き入ってしまう。

 

 

 

 

ロザラインへの恋の病を嘆くロミオ、正直めちゃくちゃ拗らせててめんどくさいな…。親友が恋愛相談乗ってくれてるのに

 

 「俺一人の悲しみで胸がつぶれそうなのに、君の分まで背負い込んだらどうなる」

 

とか言う。一つだけ言いたいのは、ロミオからの口説き文句の総攻撃にもなびかないロザライン先輩マジで強い。1回話聞きたい。

 

 

 

 

 

仮面舞踏会での出会い

舞踏会の華やかな賑わしさから一変、出会いの瞬間、衣擦れの音しかしない静寂が二人を包む。そしてロミオはジュリエットの手を取りこう言う。

 

「もしも僕の卑しい手が、聖なる御堂を汚すなら、それより優しい罪はこれ。僕の唇は、顔を赤らめた巡礼二人。こうして控え、そっと口づけして手荒な手の痕を清めよう」

 

 

私が一番好きなシーンがこの出会いのシーン。それまでの空気がガラッと変わった気がして、鳥肌が立った。優しく透通るような声で目の前の愛しいジュリエットに語り掛けるように真っ直ぐな瞳を向ける。音楽もピタリと止め、二人だけの時間が、ゆっくりと流れる。

 

演出の森さんも逢瀬のシーン稽古で愛の言葉を交わす二人について「過剰にやらないぶん澄んだ空気が生まれるし、やはり本物の若さならではの繊細さがある。」と言っていた。それだよ森さん。澄み渡ってたよ、空気。

 

 

 

「手のひらの触れ合いは、巡礼たちのくちづけ」

「聖者にも巡礼にも、唇があるのでは」

「ええ巡礼様。お祈りを唱える唇なら」

 「それなら愛しい聖者、手がすることを唇にも。唇が祈ります。どうか、信仰が絶望に変わりませんよう」

 

 

見つめあいながらゆっくりと近づき、鼻先が触れるほど近い、唇が触れる直前で一度止まってから、少し躊躇した表情を見せたのち下から掬い上げるようなキスを交わす。

(ここで双眼鏡を構え戦闘態勢に入り、瞬きする余裕もなく必死に脳内HDDに高画質保存しようとするオタクたち)←私

 

 

「あなたの唇のおかげで、この罪は清められた」

「それではその罪は、私の唇に移ってしまったの?」

「この唇の罪が?なんて優しいとがめ方だ。もう一度、その罪を返して」

 

 

今度はジュリエットの方から少し強引めなキス。

少し驚いたかの様に手を広げ、そっとジュリエットの頭を包み込む。上手側の席に入った時、キスをした後にそのまま髪の毛を撫でていてそこから記憶がない。

 

 

 

 

 

バルコニーでの掛け合い

「向こうは東。ジュリエットは太陽だ!」「あの手を包む、手袋になりたい!!そうすれば、あの頬に触れられる!!!」「もう一度言ってくれ、輝く天使!!!!」

 

お、落ち着けロミオ。現場終わりのオタクみたいな早口語りをするロミオ。盗み聞きしているのがバレたのにも関わらず堂々と現われる不屈の心。

 

「名前を捨てて。それが無理なら私を愛すると誓って!」

 

めちゃくちゃ興奮してきて壁に手をジタバタするロミオ。落ち着け。

 

愛おしい人を見つめる表情と瞳の煌めきが、恋心が始まったばかりの勢いのある掛け合いを助長させる。あどけない二人の眩しいほどの盲目な恋に胸を打たれ、息する間もないほど疾走感のある溢れ出す愛の言葉は、これから起きる悲劇など微塵も感じさせない。

 

「誰の手引きでここへ?」

「恋の手引きで(ニッコリ)」

 

話が通じないな、ロミオ。TikTokカップル動画でも上げててくれ。幸せにな。

 

 

夜明け前、バルコニーに居るジュリエットから伸ばされた手に応えるため、背伸びをしてそっと優しく触れるように手を握るロミオ。(身長が高ぇ)月夜に照らされる二人の空間は、ロマンチックで悲しいくらいに無想的で。

 

 

なぜ再びロミオを呼び戻したのかを忘れてしまったジュリエットに

「思い出すまでここに居よう」

と言うロミオ。「じゃあ、忘れたままでいる。いつまでもそこにいてほしいから。どんなにあなたと一緒に居たいか、それだけを思いながら」

「いつまでもここに居よう、いつまでも忘れていてもらうために。ここ以外に家があることなど、忘れたままで」

 

火曜10時のドラマ枠で恋愛ドラマ化してくれ。

 

 

 

 

(汗だく息切れで死にそうになりながら帰ってきたばあやにロミオからの伝言を早く聞きたいジュリエット、可愛かったなあ...)

 

 

 

 

 

教会での結婚式

ロレンス神父は、二人の恋が両家の争いに終止符を打つかもしれないと、希望の光を感じ、教会で秘かに結婚式を挙げる。ここのロミオ、めちゃくちゃニヤつきながらアーメン唱えるのでかわいい。愛しい人に会いたくて仕方がない浮ついた気持ちがこっちまで伝わってくる。若さ溢れる恋心を抑えきれず、ジュリエットに近づこうと奮闘するけど神父に何度も投げ飛ばされるロミオ。日に日に神父が“ガチ”になっていくのがポイント。さて、幸せなのはここまでなのでめちゃしんどい気持ちを抱えてグローブ座のトイレにダッシュ。2階の上手側、トイレ2個しかないらしいよ。(グローブ座攻略ガイド)

 

 

 

 

 

マキューシオの死とティボルトとの決闘

ティボルトから悪党と呼ばれたロミオが、怒りを奥底に沈めようと口角を震わせながらティボルトの前でひざまづく姿を鮮明に思い出す。

「君の想像以上に君を愛しているんだ。だから、キャピュレット、今ではその名も自分の名前と同じくらい大切に思っている」

ロミオの願いも虚しく、争いは始まってしまう。必死に止めようとしたが、マキューシオは割って入ったロミオの腕の下から刺されて死んでしまう。

 

「今日の災いはこの先の日々に暗く垂れ込めている。これはほんの手始め、続く不幸が決着をつけることになる」

 

ティボルトへの鋭いまなざし、憎しみに満ちた低い声、沸き立つ怒りで体中がドクドクと脈打つような恐ろしさが迫ってくる。さっきまでの恋焦がれるロミオはもう居なくなってしまったのかもしれない。

 

 

 

 

 

ヴェローナからの追放

「その言葉がもたらす死には、果てもキリも限度も限界もない、どんな言葉もその悲しみを言い表せはしない」

愛するロミオが追放と知ったジュリエットが絶望し嘆き悲しむ演技には引き込まれた。

 

「追放は、死より恐ろしい顔をしている」

神父から追放と宣告されたロミオの悲痛な叫びも心を締め付ける。また、ジュリエットからの指輪を受け取った時の、悲しくて愛しくてどうしようもない表情が印象的だった。

 

 

 

薄暗い光の中、二人で最後の時を過ごすシーン。いつまでも一緒に居て欲しいと願う気持ちは虚しく、時間が溶けていくかのように刻々と朝が迫る。ジュリエットに後ろから抱きつくロミオ。彫刻として国宝に認定されて欲しい。

 

「さようなら。どんな機会も逃さず、手紙を出すからね。大好きだよ。」

 

「大好きだよ」って、良いな・・・

 

 

 

 

(ちょっとすいません。自分いいっすか?……ジュリエットパパ、めちゃくちゃうるさくない?怖いって…。可哀想だろ…。(強火ジュリエット担?)いけ好かないどこのどいつかも知らんキザ男と結婚しろって言われてもなぁ、ジュリエット…)

 

 

 

小さい背中に全部全部背負い込んで戦うジュリエットが、強くて真っ直ぐで痛いほどに苦しい。息をするのも忘れてしまうくらいの圧巻の演技力がさらに悲劇の結末へと引き込む。ジュリエットの死を聞いたロミオはひどく悲しむどころか、自分も死ぬ一択の潔さ。ダメだ、ロミオ。早まるな。(マント羽織ってるロミオ最高だよね)

 

 

 

 

 

ロミオとジュリエットの最期の別れ

「愛しいジュリエット、どうしてまだこんなにも美しいんだ」

仮死状態の美しいジュリエットを目にしたロミオの優しく寂しげな顔。

 

「目よ、これが見納めだ。腕よ、抱きしめるのもこれが最後。唇よ、息吹の扉よ、正当な口づけで捺印しろ。全てを買い占める死神との無期限の売買契約に」

そう言って強く抱きしめ、優しいキスをして、ここまでの覚悟に重ねるように、ポケットから毒薬の瓶を勢いよく取り出す。こうしてロミオは、運命に翻弄されながら、残酷で美しい死を遂げた。

 

 

 

 

 

 

「あなたの唇、まだこんなにあたたかい」

あと少し、ほんの少しだけ、目覚めるのが早かったら…と思わずにはいられないロミオとジュリエットの最期。運命は変えられないとよく言うけれど、この結末のために全ての出来事が重なり合っていたとしたら、あまりの残酷さに運命を恨んでしまう。

 

 

 

 

 

カーテンコール

物語が終わり、舞台がパッと明るくなるとジュリエット役の茅島みずきちゃんをエスコートして整列。大きな拍手に包まれながら、音楽が始まる。両家が楽しそうに踊る姿はまるで“if”を見ているかのよう。“もしこんな結末じゃなかったら”と、思ったのは私だけではないはず。そして、そこに居たのはロミオ役を演じた「道枝駿佑」だった。「あぁ、ロミオだけど、道枝くんだ…」と思った。言い表すのが難しいんだけど、ロミオと彼の狭間、というか。座長として舞台の真ん中で華麗に踊る姿が、誇らしくて仕方がなかった。拍手が響き渡る会場に力強い声で「ありがとうございました!!!」と言う彼は、私の知らない人になっていて、思っていた何倍も大きく見えた。

 

 

 

 

 

道枝くんは稽古が始まる前、いろんなインタビューで「ロミオを演じることがただただ不安で怖い」と口にしていた。あまりに弱気だから、少し心配な部分もあったけど、そんなの一切感じない堂々としたお芝居で正直驚いた。私がグローブ座で会った道枝くんは、いい意味でこれまでとは「別人」で怖くなった。凄いな、どんどん凄い人になっていくね。18歳でシェイクスピア作品の主演として舞台に立つことの凄さを改めて痛感した。

 

翻訳の松岡さんは、道枝くんと茅島ちゃんを世阿弥の言葉「時分の花」として表し、「ロミオやジュリエットを演じる機会は、その『花』の咲かせどきだと思うので、そういう意味でもおふたりはすごいいいタイミングで素敵なチャンスを手にされたと感じます。」と言っていた。森さんが言うように、“未熟さ”を武器に作り上げられるロミオとジュリエットは、道枝くんにとって大きな財産となる作品だね。道枝くんのこと、もっともっと大好きになっちゃったな…。

 

 

 

素敵な時間を過ごさせてくれて、ありがとう。

 

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